そろそろ店じまい?

40代のくたびれたおっさんゲイのよしなしごと

いて座の散光星雲いろいろ

 梅雨が近づいて天気の悪い日が増え、さらに、たまに週末晴れてもちょうど満月と重なったりして、天体観測ができない時期が続いた。で、いったんしばらくやらなくなると、途端に準備その他が面倒になり、また、寝不足でない週末が快適に感じられたりして(笑)、気がついたらもう夏になっていた。夏になると今度は蚊に刺されまくるので、夜に屋外で長時間過ごすのはますます気が引けてしまう。思えば子供の頃も、天体観測はほぼ冬にしかやっていなかった記憶がある。

 が、ここに来て星雲を見る楽しみを知ったおじさんである。星雲と言えば、天の川がよく見える夏、特にいて座は外せないのである。いて座という星座は、自分の誕生月の星座でもあるのだが、どうも隣のさそり座に比べてもいまいち暗い星ばかりで見えづらく、うちあたりの明るい空では、ぱっと見てもどこにあるのかすらよくわからない。よし、ここらで一度、腰を据えていて座をじっくり探検してみることにするか…

 というわけで、いろんな種類の虫よけを用意して(笑)、久しぶりにベランダに望遠鏡一式を持ち出して設置したとある夏の夜である。望遠鏡をいじるのに「寒くない」という感覚はなんだかちょっと新鮮だw。というか、最近の虫よけはなかなか優秀で、蚊が寄ってくる気配もない。こうなると、昼の暑さも少し引いて、時おり涼しい風も立つ夜の戸外はなかなか爽やかで、夏の天体観測もまったりとしてこれはこれでなかなかよいもんだと思ったりする。さそり座の明るめの星をファインダーに入れて、東へ辿っていて座を目指す。

 

「干潟星雲」M8(いて座)

 まずは「干潟星雲」M8。ありゃー、なかなかきれいだねこりゃ。うちのカメラの画面には入りきらないくらいの大型の散光星雲で、迫力がある。NGC6530という散開星団が重なって見えるので、キラキラしていてなんとも美しい。ガス雲の前を暗黒星雲が横切っていて墨を流したように見えるところが面白い眺めで、これを「干潟(Lagoon)」になぞらえたのは、なかなかのセンスと思う。ちょっと涼しい夏の夜風に吹かれながら、空のかなたに赤く輝く海を眺めている気分、悪くないですw

 

「三裂星雲」M20(いて座)

 続いて「三裂星雲」M20。こちらは小さいけどよりくっきりしている。手前の暗黒星雲が後ろの散光星雲を3つに区切っているように見えることからこんな名前がついたらしい。写真に撮るとこれもなかなか鮮やかに写ってよい感じ。

 

「オメガ星雲(白鳥星雲)」M17(いて座)

 さらに「オメガ星雲(白鳥星雲)」M17。こちらはだいぶ明るくて見栄えがする。ギリシャ文字のΩに見えたり、水に浮く白鳥に見えたりするらしいが、うーん、どんなもんでしょw

 

「わし星雲」M16(へび座)(一部)

 最後は隣のへび座の「わし星雲」M16の一部。「創造の柱」とか呼ばれている部分。この星雲はなかなか雄大で、うちのカメラでは全体像は全く入らない。これも散光星雲に散開星団が重なっていてキラキラしてきれい(この写真ではだいぶショボいけどw)。実はメシエ番号のM16というのは、本当はこの散開星団の方に付けられたナンバーなのだとか。

 というわけで、王道の散光星雲もなかなかよいもんだ、と思った、おじさんのひと夏の思い出、でしたw

カニには見えないが…

 惑星状星雲の話が出たところで、ついでにカニ星雲である。

おうし座の「カニ星雲」M1

 

 こちらは惑星状星雲よりさらに不定形で、なんかモヤモヤした煙みたいな見た目である。それもそのはず、惑星状星雲は、寿命の尽きかけた星が白色矮星になる過程で放出したガスが、紫外線で照らされて光って見えるものだが、こちらカニ星雲は、もっと質量の大きな巨星が超新星爆発を起こして、木っ端微塵に吹き飛んだ残骸なのだそうな。

 この爆発は、1000年くらい前に地球からも見えたようで、藤原定家の日記『明月記』に記録が残っている。これは定家自身が直接見たわけではなく、彗星を見て客星(ある時突然現れてしばらくするとまた消える星)に俄然興味をもった定家が、知り合いの陰陽師に尋ねて古い記録を調べてもらい、そのメモをそのまま日記に挟み込んだものらしい。いずれにせよ、次のように書かれている。

 天喜二年四月中旬以後丑時、客星出觜参度、見東方、孛天関星、大如歳星。

 「孛」がいまいちよくわからないのだが汗(たぶん「輝く」という意味でいいのかな、と。「天関星」はその前の「東方」と同じで、場所を表す副詞句?)、ざっくり訳すと、

 「1054年の(新暦では)5月なかばより後、夜中の2時に、オリオン座の方角にヘンな星出た。東の方に見えて、おうし座ζ(ゼータ)星のあたりで輝いた。木星くらいの大きさだった。」

 旧暦4月(新暦5月)下旬の夜半にはおうし座は見えないので、これは5月の間違いと考えられているらしいが、いずれにせよ、世界的にも珍しい、望遠鏡が発明される前の超新星の観察記録である。平安時代の人も、夜空を見上げて急に明るく輝く星を見つけて、「なんじゃありゃ」「大凶事の前ぶれか」と騒いでいたのかと思うと、最近やたら星ばかり見ているおじさんとしては、何だか親近感が湧くw

 さて、急に爆発して木星くらいの明るさに輝いて見えたというこの超新星だが、中国の『宋史』の記述によると、

 至和元年五月己丑、出天関東南可数寸、歳余稍没。

 「1054年の7月4日に、おうし座ζ星の東南およそ数寸のところに出て、1年あまりで消えていった」

とのことなので、1年以上は明るく見えていたらしい。今ではすっかり暗くなって、上の写真のようなガスがモヤモヤと残っているきりである。

 ちなみに、「内部の微細なフィラメント構造(上の写真にも赤っぽい筋がちょっとだけ写ってます)がカニの脚のように見えることから、カニ星雲と名付けられた」と、ものの本には書いてあるのだけど、どう見てもカニには見えない(個人の感想ですw)。

 

だってただのガスでしょ?

 「星雲」の話である。

 天体観測・天体写真と言うと、「星雲」が花形だったりするわけである。きれいな色の散光星雲だったり、不思議な形の暗黒星雲だったり。

 が、どうも自分はあまり「星雲」に興味がなかったんである。丸い形で実体として浮いてる惑星とか、星がぎっしり集まった球状星団や銀河と違って、なんか、不定形のモヤモヤした雲みたいなもんでしょ? 言ってもただのガスじゃん、みたいなw。しかも、惑星状星雲にいたっては「残骸」みたいなもんだし。死にかけの星が放出したガスが紫外線でボーっと光ってるなんて、なんか悲しい、てか何ならちょっと怖いw

 さらに、これら星雲は、光害地では銀河よりさらに見えづらいらしいとのことで、どうせまたロクに見えないんでしょ、と思っていたせいもあるw。1枚ウン万円もするフィルターを色々に組み合わせて、人工光をカットしたり特定の波長の光だけ通したりとかいろいろ工夫をして、やっと見えるというレベルらしい。しかも、水銀灯には効果のある高価な光害カットフィルターも、最近の白色LEDには無力なんだとか。数年前に周辺の街灯がすべてLED化して、夜中でもギンギンギラギラなうちあたりじゃ、そもそも全然ムリってことだね。はいはい、やめやめ。 (^_^;

 が、ここに来て状況がちょっと変わったのだ。そう、今やおじさんには、強い味方の天体用カメラとモータードライブがある。眼視では望遠鏡を使っても見えない冥王星だのクエーサーだのも見ることができたのだ。ガス雲だって、時間をかければ全く写らないというもんでもないかも。一度試してみても損はないかな。

 まあ、実のところは、5月も末になっておとめ座やかみのけ座が西に沈み、たくさんの銀河が楽しめる季節が終わってしまって、見るものがなくなった、というのが一番大きいw いずれにせよ、ここらでいっちょ星雲も見てみようかな、とお気楽に思い立ったわけである。

 なんでも、ガス雲の中では惑星状星雲が、比較的はっきりしていて見やすいらしい。なるほど、じゃそれを狙ってみよう。惑星状星雲と言えば、こと座のリング状星雲。昔図鑑で見て、赤みがかった輪っかが印象的だったのをおぼえている。が、こと座は北寄り過ぎて、うちのベランダからは見えるか見えないかギリギリ。精確に調べてみたら、リング状星雲M57は屋根の隙間を通る僅かな時間しか見えないことが判明した。ひー。他になんかよさそうな星雲ないかな…

 あった。こぎつね座の亜鈴(あれい)状星雲M27。これも昔図鑑で見たのをおぼえている。こちらはもっと南を通るので見やすそう。よし、じゃ亜鈴状星雲を見ることにしよう。

 こぎつね座なんて今まで見たこともなくて、どこにあるのか全くわからないのだけど、どうやらわし座の北にあるらしい。というわけで、わし座のアルタイル(牽牛星・ひこ星)をファインダーに入れて、北へたどってゆく。少し進むと、や(矢)座という、横一直線に星の並んだ小さな星座が見えてくる。ここにM71という、星がまばらな小さな球状星団があるようなので、ついでに覗いてゆくw

 さらに進むと、いよいよこぎつね座の領域に入る。適当なところでファインダーから接眼レンズに切り替えて、覗いてみたらびっくり。ものすごい星の数だ。この辺は方角的に銀河系(天の川)の中心方向なので、星の密度が明らかに高い。おとめ座あたりの、明るい星が全然なくて真っ暗な視界も、今どこにいるのかわかりにくくて大変なのだけど、これはこれで、画面の中がどこもかしこもぎっしり星だらけで、いきあたりばったりで星図を開いても、どれがどれやらさっぱりわからない汗。これはテキトーに行くと迷うな、というわけで、明るめの星で現在地をしっかり確認した上で、星図とにらめっこしながら慎重に進む。

 どうやらここだ、という場所にたどり着く。カメラのシャッタースピードを5秒に設定すると、ぼやーんとした影が画面に浮かび上がってきた。おお、これか。意外と大きいな。さて、どんな感じに写るやら、というわけで、計20分ほどの露出で写したのがこの写真。

 

こぎつね座の「亜鈴状星雲」M27


 ありゃ、なかなかきれいでないの。(^_^;

 まあ、例によって、ちゃんとした天体写真と比べたらショボいことこの上ないのだけど(露出もたった20分だし)、予想していたよりはずっとまともに写った。フィルターも何も使わないでこれだけ写れば、自分的にはもう充分。てか、たいていの銀河より大きいし、はっきり濃く見えるし、色もいろいろあるし、中心部の白色矮星もちゃんと写ってるし、いちおうちゃんと鉄アレイみたいな形に見えるし、星雲、やっぱ悪くないかも…w

 というわけで、後日こと座のリング状星雲M57も撮ってみた。こちらはだいぶ小さいけれど、これもけっこうはっきりと写った。

 

こと座の「リング状星雲」M57

 

冥王星を見た話

 星図をたよりに天王星海王星まで見て、太陽系の惑星は全てこの目で観察することに成功したおじさんである。

 そう、冥王星は惑星じゃなくなったのだ(なんか「準惑星」とかいうくくりになったらしい)。実は冥王星の明るさは14等星くらい。うちの望遠鏡の限界等級は12.8等らしいので、そもそも見たいと思っても見えない。冥王星を見なくても、「惑星は全部見た」ことになるのだから、むしろ惑星から外れてもらってある意味好都合だったのかもw

 …あれ?

 そう、実はこないだ撮影したクエーサーB1422+231は16等星くらい。眼視ではなく、カメラで撮影するんだったら、実は14等星の冥王星も、余裕なんじゃね?

 うん、やはり「すいきんちかもくどってんかいめい」とか唱えて順番をおぼえた世代としては、冥王星は今でも気分の上では惑星ファミリーの立派な一員なのだ(後ろの方は途中で一時「めいかい」とか順番変わったりしたけどw)。「すいきんちかもくどってんかい」では、やはりなんとも収まりが悪い。冥王星だけ仲間はずれはイクナイ。よし、冥王星も見よう(なんだそりゃ)。

 というわけで、撮影してみたのがこれ。いちおうちゃんと写った(ただの点だけどw)。

冥王星。この時はいて座にいたので、まわりに星が多くてにぎやか


 実はこの写真、カメラのピントがずれてしまってボケボケです。でもまあ、もしピントが合っていたって結局タダの点なのは変わらないんだから、もういいやこのままでw

 それにしても、冥王星までの距離は平均でおよそ60億キロ。光年で表せば、0.0006光年くらい。前に撮った、24億光年かなたのクエーサー3C273がこれより明るく写るって、一体どんだけ明るいんだクエーサー冥王星までの距離より4兆倍くらい遠いのに、冥王星より2.5倍も明るく見える)。

119億。

 というわけで、B1422+231、である。

 もうほぼ意味不明の呪文だがw、これがおじさんが次に目標にした天体の名前なんである。前回(3C273)に引き続き、クエーサーである。そして、今回のやつは、前回(24億光年)よりもさらに遠い(じゅる…)

 前回、13等星の3C273を撮影してみたところ、写真では思ったより明るく写ったのである。さらに、画像にはもっと暗い星もいくつも写っているように見える。星図と見比べてチェックしてみると、どうやら16等星くらいまでは確認できそうな勢いである。

 …ひょっとして、もっと遠いやつも行ける?

 さっそく、ネットを探してチェックだ。同じようなことを考える人がいるのか、「視等級が明るいクエーサーの一覧表」みたいなのがいくつも見つかる。14等星くらいのものもけっこうあるようだが、クエーサーは明るさが変動するものが多いようで、最大光度は14等星でも、一番暗いときには18等星以下なんてのもざらにある。これでは、見た時に偶然暗い状態だと、うちの望遠鏡では全く写らないことになる。なるべく光度の変動が少ないものを探す。

 さらに、今回に関しては、とにかくなるべく遠いものがいいのだ。クエーサーは、遠いものほど速い速度で遠ざかっているのだそうで、クエーサーまでの距離は、ドップラー効果による光の波長の赤方偏移の値(z)で推定することができる。この値が大きいほど距離は遠い。ちなみに、前回見た3C273はzが0.158で、およそ24億光年。

 16等星より明るく、光度の変動が少なく、赤方偏移の値が大きいもの… 探してゆくと、うしかい座のB1422+231なるクエーサーが見つかった(今回は主にここで探しました)。明るさは16.5等ということで、うちの機材では写るかどうかギリギリな感じだが、その代わり変動幅が書いてないということは、いつでもほぼ同じくらいの明るさで見えるってことかな。赤方偏移の値は、3.620…

 3.62…? え、すげーじゃんこれ。桁が一つ違うよ。となると距離は?

 …およそ119億光年。

 キター! こっちも一桁上がった! ついに100億超え。ミリオン超えてビリオンだよ。ほんとに見えんのかこれ。よし見よう。今すぐ見よう。

 というわけで、探した、見た、撮った。これがそれ。

 

うしかい座クエーサー、B1422+231(地球からの距離およそ119億光年)


 もはや点かどうかすら怪しいくらいにかすかだがw、確かに写った。間違いなくこれがB1422+231、119億光年かなたからやって来た光だ。うーん、うちのポンコツ望遠鏡でもちゃんと見えるんだなぁ。

 実はこのクエーサー、途中にある銀河の重力の影響で光が曲げられて、巨大な望遠鏡で見ると4重に見えるらしいのだが、うちの望遠鏡ではそんな気配は全くない笑。だがそんなことはどうでもよい。こうして写真に写して実際に見ることができただけでも、おじさん的には十分大したことなんである。だってこんな、場末の住宅街のボロ家のせっまいベランダから、119億光年ですぜダンナ。地球や太陽ができるはるか以前に向こうを出発した光を(太陽系が生まれたのは46億年前くらいだそうな)、今チンケな初老のおっさんが、アホみたいにここでボケっと見てるんですぜ。あるんだかないんだかわかんないようなタダのかすかな点だけど、こいつぁスゲーんですわ、よくわからんがw

 さて、いつものお約束で行くと、このクエーサーまでの距離は、光の速度で119億年。地球のロケット(秒速20キロくらい)で行こうとしたら、179兆年。新幹線(時速300キロ)なら、4京3400兆年。この距離をキロメートルで表すと、

 113,050,000,000,000,000,000,000km

 (1130垓5000京キロ)

 てことになるみたいです。

 が、実際にもし179兆年かけてロケットで飛んでいったとしても、この天体には決して着くことはない。実は、さっきもちょっと触れたが、遠い天体は、遠ければ遠いほどより速いスピードで遠ざかっている。これは、宇宙自体がものすごい勢いで膨張しているからなのだそうだが、赤方偏移の値が1.7程度を超える天体の場合、この相対的な後退速度は光速を超えることになるらしい。この世で一番速いものは光だから、光の速度を超えて遠ざかるものには、何も追いつくことができない。

 …?

 「光が一番速い」のに、「光より速く遠ざかるものがある」って、どゆこと? 答:空間は物質ではなく、それがある「場」に過ぎない。場そのものの膨張は、そこにある物質の移動とは別なので、結果として相対的な速度が光速を超えても、物理的に矛盾はない。

 …ぼーん。(私の頭が爆発した音)

 ま、まあ、よくわからんがそういうことらしいですw。実は上に挙げた距離も、「光達距離」と言って、光がこちらまで届くのにかかった時間を便宜的に距離として挙げているに過ぎないのだそうな。というわけで、このB1422+231は、今現在は実際には、200億光年を優に超えたところを、(こちらから見ると)文字通り超光速でぶっ飛んでいる、と考えられるのだそうです、はい。(^_^;

 なお、あやしげな暗号めいた名前だが、これは場所を表す座標。Bはbootes(うしかい座)のB、1422は赤経、+231は赤緯。そういう意味ではわかりやすいのかもしれないけど、おぼえらんねーよw 実はうしかい座アルクトゥールスのすぐ近くにあるので、探すのはけっこう簡単。まあ、上の写真にある通り、いくら見えたとて、タダの点以上のものではないんだけどね。(^_^;

 いずれにせよ、おっさんの「なるべく遠くを見てみようチャレンジ」は、こうしてついに宇宙の果ての少し前まで到達することができたのでありました。40年前のオンボロ望遠鏡でここまで見ることができたのは、正直ちょっと感動。いい冥土の土産ができましたw