クエーサーを見た話
さて、1億光年超えの遠い銀河の撮影にも成功して、すっかりご満悦の初心者星見おじさんである。しばらくはこれで「遠くが見たい欲」もおさまっていたのだが、人間の欲というのは果てしないもので、しばらく(数日w)すると、もっと遠くが見えたりしないものかと考えるようになった。
遠い天体、と言えばクエーサーである。現在では「活動銀河核の一種」ということで解決しているようだが、自分が子供の頃にはまだ存在自体が発見されたばかりで、やたら遠くてサイズはそれほど大きくないのに(太陽系一つ分くらい、とかの大きさらしい)、とんでもない量のエネルギーを放出している謎の天体、という扱いだったと思う。クエーサーというのは、quasi-stellar object「恒星的なもの」という表現から作った造語だそうだが、それにならって日本語でも「準星」という言い方があったと記憶している。子供の頃のぼんやりした記憶では、とにかくすごく強い電磁波を放っている天体という印象が強くて、なんとなく勝手に、電波望遠鏡でないと観測できないのかなと思いこんでいたのだが、今回ちょっと調べてみたら、実は可視光線も大量に出ているらしい。
…え? ひょっとして、見える?
さらに調べてみると、一番明るい3C273というクエーサーは、視等級12.9等とのこと。これなら、こないだのかみのけ座銀河群の結果から見ても、うちの機材でも写りそうじゃん(眼視では望遠鏡でも見えないだろうけど)。
よし、見よう。
3C273は、自分でも唯一もとから名前を知っていたクエーサーで、そういう意味でも、次の探索の目標にふさわしい気がする。なんでもこれは、そもそも史上はじめて確認されたクエーサーで、かつ地球から見えるうちで一番明るく、また一番近くにあるクエーサーらしい。まあ、クエーサー界のトップ「スター」だね(うわ、オヤジくさい言い方w)。「一番近い」というのがちょっと気になるけど、距離は…
およそ24億光年。
ふんがー。いい! すごくいい! 一気にまた一つ桁が上がったよ。相手にとって不足なし。よし見よう。さっそく見よう。
普通の星図にはクエーサーは載っていないので、Stellariumにクエーサーを表示するプラグインを導入して探してみると、3C273はおとめ座にあるらしいことがわかった。おお、ちょうど今(4月半ば)うちのベランダからバッチリ見やすい位置じゃんか。てか、こないだまであっちこっち覗いていたおとめ座銀河団とほぼ同じ方向だ。M61 の近くなんだね。今までも、知らずに通り過ぎたりしてたのかも。うん、この辺りなら、もう勝手知ったる庭みたいなもん。さっそく望遠鏡を覗いて、こっち行って、ちょいと進んで、それから… ありゃ? ここはどこだ?
…迷った。(^_^;
どうもこのあたり、明るい星が少なくて、調子に乗ってるとすぐ迷子になる汗。はい、もう一度デネボラからやり直し…
というわけで、どうにかこうにかここらしいという場所にたどり着く。星図と何度も見比べて、同じ星並びを確認する。うん、間違いない。この辺の、この星とこの星の間くらいにあるはずだ。写真に撮れば、ここに13等星前後の星が三角形に並んで写るはずで、その一番西側のやつが3C273のはず…
そんなわけで、5秒で100コマ、計10分弱ほどの露出で撮影したのがこの写真。
…写った。
これが3C273。もはや銀河のようにモヤっとすらしていず、ひたすらただの星、ただの点にしか見えないんだけど、これはまわりに写っている他の星々とは比べものにならないくらいはるか遠くにあるものなのだ。24億光年。谷川俊太郎の詩に「二十億光年の孤独」というのがあるけど、あれは当時は宇宙全体の大きさが20億光年くらいと考えられていたことから出てきた表現なのだそうで、この天体はそれよりさらに遠くにある。いつものお約束で言うと、ここに写っている光は、24億年前の光。地球ではまだ海の中に単細胞生物がプカプカ浮いているだけで、人間はおろか陸上には生命すら存在しなかった時代に、向こうでピカッと光った光が、24億年かけてやっと今ここまでたどり着いたわけだ。24億光年。地球のロケットで行くと、36兆年かかる距離。新幹線なら、8760兆年。22,800,000,000,000,000,000,000キロメートル。きゃー、なんて読むのかすらもうわからんw(京の上は「垓」だそうです)
そう、いつにも増してくどくど説明を加えているのは、他でもない。言わなきゃひたすらタダの点、だからですw。まあ、言われたって別にタダの点であることに変わりはないんだけど、なんかようわからんがとにかくスゲーのよ、この点(もうむちゃくちゃ)。
なお、えらく遠くにあるので、見た目は13等星にしか見えないのだけど、実はこれ、とんでもなく明るいものであるらしい。ウィキペディア情報によると、ふたご座の1等星ポルックスのある場所(地球からおよそ33光年)にもしこれがあったとすると、地球からは太陽くらいの明るさに見えるらしい。逆に、と言うか、もし太陽がポルックスの位置にあったとしたら、地球からは地味な黄色い5等星にしか見えないんだって(つまり、3C273は太陽よりおよそ6兆倍くらい明るい、ということになるらしい。太陽系一つ分くらいの範囲の中に、太陽を6兆個つめこんだ明るさの天体。きゃーw)。
さて、そんなこんなで「謎の天体」クエーサーも無事に見ることができて、おじさんの「遠くを見たい欲」も今度こそ十分に満たされたわけである。うん、24億光年まで行ければもう十分だよね。そもそもクエーサーなんて、うちのベランダから見えるものだとは思ってもいなかったし。満足まんぞく。「より遠く」はこれでもういいかな…
…でも、3C273て、「一番近い」クエーサーだったよね。ここまで来たら、もうちょっと遠いやつも見えたりしない?
人間の欲は果てしないのです。というわけで、この話もう1回だけ続くw
(にしても、こういう天体の名前って、もうちょっとなんとかならんもんですかね。3C273は、「ケンブリッジ大学が編纂したカタログの第3版の273番目の天体」てことらしいんですが、なんかもう即物的というか味も素っ気もないというか汗。まあ、いっぱいありすぎていちいち名前なんてつけてらんないてことなんでしょうけど、昔から知られている恒星なら「さみだれぼし」とか「天狼星」とか「ラス・アルハゲ」とかw、いろいろ印象的な名前が付いてるわけだし、小惑星だって「たこやき」に「座敷童子」に「早見優」って、いろいろ揃ってるのにね。(^_^; )