そろそろ店じまい?

40代のくたびれたおっさんゲイのよしなしごと

より遠く、より遠く、より遠くw

 近代オリンピックのモットーは、citius, altius, fortius「より速く、より高く、より強く」なのだそうだが、それにならえば、おっさんの最近のモットーは、

 longius, longius, longius「より遠く、より遠く、より遠く」

である。そう、もちろんまたもや、星を見る話だw(というか、もはやここにはそれ以外ない)

 曲がりなりにも、天体写真(的なもの)を撮れる環境を整えて、眼視では見えない淡く暗い銀河を次々に見て楽しんだ2022年の春であった。系外銀河というのは、我々の銀河「系」の「外」にあるわけなので、最低でも、銀河系の範囲(直径10万光年)よりはおおむね遠いところにあるわけだ。このわけのわからない、目くるめくような距離感がなんとも楽しいのだが、いろいろ見るうちに、自分の「遠いところを見た記録」もどんどん更新されていった。撮った写真と共に一部を挙げれば…

おおぐま座 M82「葉巻銀河」 1200万光年

 

りょうけん座 M51「子持ち銀河」 2300万光年

 

りょうけん座 M63「ひまわり銀河」 3700万光年

 

かみのけ座 M88銀河 4700万光年

 

かみのけ座 NGC4565「針銀河」 5600万光年

 

おとめ座 M58銀河 6200万光年


 さてこうなると、もはや写真に写した時の見ばえとかはどうでもいいから、とにかく遠くのものを見てみたい、という欲が出てくる。このチンケなおっさんが、40年前のポンコツ機材を駆使して、一体どこまで遠くを見ることができるのか、試してみたい。そこで、より遠い銀河で、かつうちの望遠鏡でも見えるような明るめのものはないか、探してみる。

 すると、ペルセウス座銀河団なるものがあることがわかった。地球からの距離はおよそ2億5千万光年。ひょえ~、しびれるw。一気に億超えだ。それでも、等級はおよそ12.5等(1億光年超えの銀河団の中では一番明るいらしい)。これならうちの望遠鏡でも見えるかも。

 ただ、ペルセウス座は北寄り過ぎて、うちのベランダからはほぼ見えない泣。この銀河団の中心にあるブラックホールからは、「宇宙で一番低い音」が出ているのだそうで(ピアノの真ん中のドの音から数えて57オクターブ下のシのフラットだそうなw)、その点でもとても魅力的なのだけど(まあ、見ても音が聞こえるわけじゃないけど)、泣く泣くあきらめて、他を探す。

 さらに、明るめの銀河団として、かみのけ座銀河団というのもあるようだ。こちらは、明るさおおよそ13.5等。眼視ではうちの鏡筒の限界等級(12.8等)を超えているから、望遠鏡を使っても見えないけど、カメラで撮るならぎりぎり写るかな。距離は…

 …およそ3億2千万光年。

 きゃー。ステキだ。ステキすぎる。見たい。見よう。

 たくさんの銀河が寄り集まって集団になっているものを銀河団と呼ぶ。ちなみに、われわれの銀河系は、アンドロメダ銀河などと一緒に銀河団を構成しているのだそうな。おとめ座に有名な銀河団があるが(ちなみに、銀河団が複数集まると今度は「超銀河団」なるものができるらしく、われわれの銀河系は「おとめ座銀河団」のメンバーということにもなるらしい)、その北側のかみのけ座にあるさらに別のもっと遠い銀河団が、今回の目標だ。かみのけ座銀河団には1000個以上の銀河が含まれているそうだが、その中心にあって一番明るいのが、NGC4889とNGC4874の2つで、星図上ではとても近い位置にある。写真に撮っても、同じ画面に収まりそうだ。NGC4889は今までに観測されているうちで最もサイズが大きい銀河なのだそうで(だから、こんなに離れてるのに明るめに見えるのだね)、中心にあるブラックホールも、これまた観測史上最大、太陽の200億倍の質量があるらしい。

 …ふーん汗

 なんのことやらさっぱりわかんないが、なんかとにかくスゲーらしいw というわけで、さっそく見に行ってみるぞ。

 かみのけ座は、大きな散開星団がまるまる1つ星座になったようなもので、ファインダーで見ても、細かい星がきらきらと大量に光っているのがよく見える。が、今回探す銀河団は、かみのけ座中心部のこの賑やかなあたりからは少し外れた所にあるので、逆側のうしかい座アルクトゥールスから、明るめの星をたどって探してゆくことにする(この方が、距離は遠いがわかりやすそうだ)。

 アルクトゥールスのすぐ西に、ムフリドという3等星がある(ファインダーでは同じ視野に入るので、逆に言えば、ムフリドの方に向かえば天の西方向へ行ける)。そのままずっと西へ進むと、やがて4等星が一つ見えてくる。これが、かみのけ座のα星で、ディアデムという名前がついている(このすぐ近くには、球状星団M53もある)。その先にもう一つ、今度は5等星があるので(かみのけ座36番星)、ここで北へ曲がる。かみのけ座35番星(これも5等星。このすぐ近くには「黒目銀河」M64もある)が視野の中に見えているのも確認しつつ、さらに先へ進むと、5等星くらいの4つの星が、2つずつ固まって横一列に並んだ特徴的な星列が見えてくる。今回の目標のかみのけ座銀河団は、この星並びのちょうど真ん中へんのわずかに北寄りのあたりにあるはず。ここで探索を、ファインダーから鏡筒本体にチェンジだ。

 (ちなみに、毎回こうやって経路をくどくどと記しているのは、次にもう一度自分で探す時のためのメモなのです。(^_^;)

 4つの星の並んだ真ん中ちょっと北に、7等星くらいの星が3つ狭い範囲に並んだ三角形があるはず。おお、今回は珍しく、ファインダーでテキトーに入れたら一発でそれらしい星が一つカメラの画面に入ったぞ。この周辺をちょっと探すと… あった、これが2つ目。すると多分、こっちの方にもう1個… よしあった。これで今どこにいるかわかった。NGC4千なんちゃら(おぼえてないw)の2つの銀河は、この一番南の星のさらに南側に2つ並んであるはずだから、このくらいでちょうど画面真ん中に入るかな。よし、ではいよいよ撮影だ。シャッタースピードを5秒にして…

 …おお、なんかぼうっとした点が2つ見えてきたよ。こ、これが、3億光年? なのか? そうなのか?

 と、いうわけで、撮れた写真がこれです。結論から言うと、うちのポンコツ機材でもちゃんと写りました。画面中央の、一番大きいぼうっとしたシミ2つのうち、左がこの銀河団のボス、巨大銀河のNGC4889、距離はおよそ3億光年。右がナンバー2、これまた巨大銀河のNGC4874、こちらの距離は、地球からおよそ3億5千万光年。

NGC4889とNGC4874(かみのけ座銀河団。地球からの距離3~3.5億光年)


 …3億5千万。なんと素晴らしい響きでせう。ええ、「でもただのシミじゃん」と思ったあなた、あなたは正しい。私も正直、「ただのシミじゃん」と思うw(ちなみに予告しておきますと、後で今度は「ただの点じゃん」というモノも出てきますw)。しかしこのシミ、3億5千万光年かなたにあるのだ。この世界で一番速く移動するのは光だそうだが、1秒で30万キロ(地球を7周半)進む光が1年かかって進む距離が1光年(約9兆5千億キロ)。ちなみに人間の作った宇宙探査機の最速のやつは今秒速20キロくらいで飛んでいるらしい。秒速20キロと言えば、東京から大阪まで20秒で行ってしまうスピードだから、だいぶ速いと思うのだけど、これで1光年の距離を飛ぼうとすると、およそ1万5千年かかることになる。地球から一番近い太陽以外の恒星はケンタウルス座のα星だそうだが、4光年ちょっとのところにあるので、地球のロケットで行くと6万年ほどかかる。3億5千万光年先のNGC4724まで行こうとしたら、実に、5兆2500億年。この宇宙が始まるずっと前に出発していたとしても、まだ全然着かない(宇宙ができたのは138億年前だそうな)。ちなみに新幹線で行ったら、1京3千兆年…

 なお、光が3億年かかって届いたということは、今見ている光は3億年前の光だということで、つまり、上の写真に見えているのは3億年前の宇宙ということになる。今現在どうなっているのかは、また3億年後にならないと誰にもわからない。うーん、やっぱどうもピンとこないけど、とにかくスゲーのだ、たぶんw

 ちなみに、この写真にはいくつか恒星も写っているが、小さなぼやっとしたシミのように見えるものは、ほとんど全てが、かみのけ座銀河団に属する銀河である。また、この中の一番明るい星でも7等星なので、肉眼では、この写真に写っている天体はどれも全く見えない。

 いやあ、うちのオンボロ望遠鏡でも本当に見えるんだなぁ。なんとも感慨深いです。そんでもまあやっぱり、ぶっちゃけただのシミにしか見えんよね。(^_^;