そろそろ店じまい?

40代のくたびれたおっさんゲイのよしなしごと

119億。

 というわけで、B1422+231、である。

 もうほぼ意味不明の呪文だがw、これがおじさんが次に目標にした天体の名前なんである。前回(3C273)に引き続き、クエーサーである。そして、今回のやつは、前回(24億光年)よりもさらに遠い(じゅる…)

 前回、13等星の3C273を撮影してみたところ、写真では思ったより明るく写ったのである。さらに、画像にはもっと暗い星もいくつも写っているように見える。星図と見比べてチェックしてみると、どうやら16等星くらいまでは確認できそうな勢いである。

 …ひょっとして、もっと遠いやつも行ける?

 さっそく、ネットを探してチェックだ。同じようなことを考える人がいるのか、「視等級が明るいクエーサーの一覧表」みたいなのがいくつも見つかる。14等星くらいのものもけっこうあるようだが、クエーサーは明るさが変動するものが多いようで、最大光度は14等星でも、一番暗いときには18等星以下なんてのもざらにある。これでは、見た時に偶然暗い状態だと、うちの望遠鏡では全く写らないことになる。なるべく光度の変動が少ないものを探す。

 さらに、今回に関しては、とにかくなるべく遠いものがいいのだ。クエーサーは、遠いものほど速い速度で遠ざかっているのだそうで、クエーサーまでの距離は、ドップラー効果による光の波長の赤方偏移の値(z)で推定することができる。この値が大きいほど距離は遠い。ちなみに、前回見た3C273はzが0.158で、およそ24億光年。

 16等星より明るく、光度の変動が少なく、赤方偏移の値が大きいもの… 探してゆくと、うしかい座のB1422+231なるクエーサーが見つかった(今回は主にここで探しました)。明るさは16.5等ということで、うちの機材では写るかどうかギリギリな感じだが、その代わり変動幅が書いてないということは、いつでもほぼ同じくらいの明るさで見えるってことかな。赤方偏移の値は、3.620…

 3.62…? え、すげーじゃんこれ。桁が一つ違うよ。となると距離は?

 …およそ119億光年。

 キター! こっちも一桁上がった! ついに100億超え。ミリオン超えてビリオンだよ。ほんとに見えんのかこれ。よし見よう。今すぐ見よう。

 というわけで、探した、見た、撮った。これがそれ。

 

うしかい座クエーサー、B1422+231(地球からの距離およそ119億光年)


 もはや点かどうかすら怪しいくらいにかすかだがw、確かに写った。間違いなくこれがB1422+231、119億光年かなたからやって来た光だ。うーん、うちのポンコツ望遠鏡でもちゃんと見えるんだなぁ。

 実はこのクエーサー、途中にある銀河の重力の影響で光が曲げられて、巨大な望遠鏡で見ると4重に見えるらしいのだが、うちの望遠鏡ではそんな気配は全くない笑。だがそんなことはどうでもよい。こうして写真に写して実際に見ることができただけでも、おじさん的には十分大したことなんである。だってこんな、場末の住宅街のボロ家のせっまいベランダから、119億光年ですぜダンナ。地球や太陽ができるはるか以前に向こうを出発した光を(太陽系が生まれたのは46億年前くらいだそうな)、今チンケな初老のおっさんが、アホみたいにここでボケっと見てるんですぜ。あるんだかないんだかわかんないようなタダのかすかな点だけど、こいつぁスゲーんですわ、よくわからんがw

 さて、いつものお約束で行くと、このクエーサーまでの距離は、光の速度で119億年。地球のロケット(秒速20キロくらい)で行こうとしたら、179兆年。新幹線(時速300キロ)なら、4京3400兆年。この距離をキロメートルで表すと、

 113,050,000,000,000,000,000,000km

 (1130垓5000京キロ)

 てことになるみたいです。

 が、実際にもし179兆年かけてロケットで飛んでいったとしても、この天体には決して着くことはない。実は、さっきもちょっと触れたが、遠い天体は、遠ければ遠いほどより速いスピードで遠ざかっている。これは、宇宙自体がものすごい勢いで膨張しているからなのだそうだが、赤方偏移の値が1.7程度を超える天体の場合、この相対的な後退速度は光速を超えることになるらしい。この世で一番速いものは光だから、光の速度を超えて遠ざかるものには、何も追いつくことができない。

 …?

 「光が一番速い」のに、「光より速く遠ざかるものがある」って、どゆこと? 答:空間は物質ではなく、それがある「場」に過ぎない。場そのものの膨張は、そこにある物質の移動とは別なので、結果として相対的な速度が光速を超えても、物理的に矛盾はない。

 …ぼーん。(私の頭が爆発した音)

 ま、まあ、よくわからんがそういうことらしいですw。実は上に挙げた距離も、「光達距離」と言って、光がこちらまで届くのにかかった時間を便宜的に距離として挙げているに過ぎないのだそうな。というわけで、このB1422+231は、今現在は実際には、200億光年を優に超えたところを、(こちらから見ると)文字通り超光速でぶっ飛んでいる、と考えられるのだそうです、はい。(^_^;

 なお、あやしげな暗号めいた名前だが、これは場所を表す座標。Bはbootes(うしかい座)のB、1422は赤経、+231は赤緯。そういう意味ではわかりやすいのかもしれないけど、おぼえらんねーよw 実はうしかい座アルクトゥールスのすぐ近くにあるので、探すのはけっこう簡単。まあ、上の写真にある通り、いくら見えたとて、タダの点以上のものではないんだけどね。(^_^;

 いずれにせよ、おっさんの「なるべく遠くを見てみようチャレンジ」は、こうしてついに宇宙の果ての少し前まで到達することができたのでありました。40年前のオンボロ望遠鏡でここまで見ることができたのは、正直ちょっと感動。いい冥土の土産ができましたw