クエーサーを見た話
さて、1億光年超えの遠い銀河の撮影にも成功して、すっかりご満悦の初心者星見おじさんである。しばらくはこれで「遠くが見たい欲」もおさまっていたのだが、人間の欲というのは果てしないもので、しばらく(数日w)すると、もっと遠くが見えたりしないものかと考えるようになった。
遠い天体、と言えばクエーサーである。現在では「活動銀河核の一種」ということで解決しているようだが、自分が子供の頃にはまだ存在自体が発見されたばかりで、やたら遠くてサイズはそれほど大きくないのに(太陽系一つ分くらい、とかの大きさらしい)、とんでもない量のエネルギーを放出している謎の天体、という扱いだったと思う。クエーサーというのは、quasi-stellar object「恒星的なもの」という表現から作った造語だそうだが、それにならって日本語でも「準星」という言い方があったと記憶している。子供の頃のぼんやりした記憶では、とにかくすごく強い電磁波を放っている天体という印象が強くて、なんとなく勝手に、電波望遠鏡でないと観測できないのかなと思いこんでいたのだが、今回ちょっと調べてみたら、実は可視光線も大量に出ているらしい。
…え? ひょっとして、見える?
さらに調べてみると、一番明るい3C273というクエーサーは、視等級12.9等とのこと。これなら、こないだのかみのけ座銀河群の結果から見ても、うちの機材でも写りそうじゃん(眼視では望遠鏡でも見えないだろうけど)。
よし、見よう。
3C273は、自分でも唯一もとから名前を知っていたクエーサーで、そういう意味でも、次の探索の目標にふさわしい気がする。なんでもこれは、そもそも史上はじめて確認されたクエーサーで、かつ地球から見えるうちで一番明るく、また一番近くにあるクエーサーらしい。まあ、クエーサー界のトップ「スター」だね(うわ、オヤジくさい言い方w)。「一番近い」というのがちょっと気になるけど、距離は…
およそ24億光年。
ふんがー。いい! すごくいい! 一気にまた一つ桁が上がったよ。相手にとって不足なし。よし見よう。さっそく見よう。
普通の星図にはクエーサーは載っていないので、Stellariumにクエーサーを表示するプラグインを導入して探してみると、3C273はおとめ座にあるらしいことがわかった。おお、ちょうど今(4月半ば)うちのベランダからバッチリ見やすい位置じゃんか。てか、こないだまであっちこっち覗いていたおとめ座銀河団とほぼ同じ方向だ。M61 の近くなんだね。今までも、知らずに通り過ぎたりしてたのかも。うん、この辺りなら、もう勝手知ったる庭みたいなもん。さっそく望遠鏡を覗いて、こっち行って、ちょいと進んで、それから… ありゃ? ここはどこだ?
…迷った。(^_^;
どうもこのあたり、明るい星が少なくて、調子に乗ってるとすぐ迷子になる汗。はい、もう一度デネボラからやり直し…
というわけで、どうにかこうにかここらしいという場所にたどり着く。星図と何度も見比べて、同じ星並びを確認する。うん、間違いない。この辺の、この星とこの星の間くらいにあるはずだ。写真に撮れば、ここに13等星前後の星が三角形に並んで写るはずで、その一番西側のやつが3C273のはず…
そんなわけで、5秒で100コマ、計10分弱ほどの露出で撮影したのがこの写真。
…写った。
これが3C273。もはや銀河のようにモヤっとすらしていず、ひたすらただの星、ただの点にしか見えないんだけど、これはまわりに写っている他の星々とは比べものにならないくらいはるか遠くにあるものなのだ。24億光年。谷川俊太郎の詩に「二十億光年の孤独」というのがあるけど、あれは当時は宇宙全体の大きさが20億光年くらいと考えられていたことから出てきた表現なのだそうで、この天体はそれよりさらに遠くにある。いつものお約束で言うと、ここに写っている光は、24億年前の光。地球ではまだ海の中に単細胞生物がプカプカ浮いているだけで、人間はおろか陸上には生命すら存在しなかった時代に、向こうでピカッと光った光が、24億年かけてやっと今ここまでたどり着いたわけだ。24億光年。地球のロケットで行くと、36兆年かかる距離。新幹線なら、8760兆年。22,800,000,000,000,000,000,000キロメートル。きゃー、なんて読むのかすらもうわからんw(京の上は「垓」だそうです)
そう、いつにも増してくどくど説明を加えているのは、他でもない。言わなきゃひたすらタダの点、だからですw。まあ、言われたって別にタダの点であることに変わりはないんだけど、なんかようわからんがとにかくスゲーのよ、この点(もうむちゃくちゃ)。
なお、えらく遠くにあるので、見た目は13等星にしか見えないのだけど、実はこれ、とんでもなく明るいものであるらしい。ウィキペディア情報によると、ふたご座の1等星ポルックスのある場所(地球からおよそ33光年)にもしこれがあったとすると、地球からは太陽くらいの明るさに見えるらしい。逆に、と言うか、もし太陽がポルックスの位置にあったとしたら、地球からは地味な黄色い5等星にしか見えないんだって(つまり、3C273は太陽よりおよそ6兆倍くらい明るい、ということになるらしい。太陽系一つ分くらいの範囲の中に、太陽を6兆個つめこんだ明るさの天体。きゃーw)。
さて、そんなこんなで「謎の天体」クエーサーも無事に見ることができて、おじさんの「遠くを見たい欲」も今度こそ十分に満たされたわけである。うん、24億光年まで行ければもう十分だよね。そもそもクエーサーなんて、うちのベランダから見えるものだとは思ってもいなかったし。満足まんぞく。「より遠く」はこれでもういいかな…
…でも、3C273て、「一番近い」クエーサーだったよね。ここまで来たら、もうちょっと遠いやつも見えたりしない?
人間の欲は果てしないのです。というわけで、この話もう1回だけ続くw
(にしても、こういう天体の名前って、もうちょっとなんとかならんもんですかね。3C273は、「ケンブリッジ大学が編纂したカタログの第3版の273番目の天体」てことらしいんですが、なんかもう即物的というか味も素っ気もないというか汗。まあ、いっぱいありすぎていちいち名前なんてつけてらんないてことなんでしょうけど、昔から知られている恒星なら「さみだれぼし」とか「天狼星」とか「ラス・アルハゲ」とかw、いろいろ印象的な名前が付いてるわけだし、小惑星だって「たこやき」に「座敷童子」に「早見優」って、いろいろ揃ってるのにね。(^_^; )
より遠く、より遠く、より遠くw
近代オリンピックのモットーは、citius, altius, fortius「より速く、より高く、より強く」なのだそうだが、それにならえば、おっさんの最近のモットーは、
longius, longius, longius「より遠く、より遠く、より遠く」
である。そう、もちろんまたもや、星を見る話だw(というか、もはやここにはそれ以外ない)
曲がりなりにも、天体写真(的なもの)を撮れる環境を整えて、眼視では見えない淡く暗い銀河を次々に見て楽しんだ2022年の春であった。系外銀河というのは、我々の銀河「系」の「外」にあるわけなので、最低でも、銀河系の範囲(直径10万光年)よりはおおむね遠いところにあるわけだ。このわけのわからない、目くるめくような距離感がなんとも楽しいのだが、いろいろ見るうちに、自分の「遠いところを見た記録」もどんどん更新されていった。撮った写真と共に一部を挙げれば…
さてこうなると、もはや写真に写した時の見ばえとかはどうでもいいから、とにかく遠くのものを見てみたい、という欲が出てくる。このチンケなおっさんが、40年前のポンコツ機材を駆使して、一体どこまで遠くを見ることができるのか、試してみたい。そこで、より遠い銀河で、かつうちの望遠鏡でも見えるような明るめのものはないか、探してみる。
すると、ペルセウス座銀河団なるものがあることがわかった。地球からの距離はおよそ2億5千万光年。ひょえ~、しびれるw。一気に億超えだ。それでも、等級はおよそ12.5等(1億光年超えの銀河団の中では一番明るいらしい)。これならうちの望遠鏡でも見えるかも。
ただ、ペルセウス座は北寄り過ぎて、うちのベランダからはほぼ見えない泣。この銀河団の中心にあるブラックホールからは、「宇宙で一番低い音」が出ているのだそうで(ピアノの真ん中のドの音から数えて57オクターブ下のシのフラットだそうなw)、その点でもとても魅力的なのだけど(まあ、見ても音が聞こえるわけじゃないけど)、泣く泣くあきらめて、他を探す。
さらに、明るめの銀河団として、かみのけ座銀河団というのもあるようだ。こちらは、明るさおおよそ13.5等。眼視ではうちの鏡筒の限界等級(12.8等)を超えているから、望遠鏡を使っても見えないけど、カメラで撮るならぎりぎり写るかな。距離は…
…およそ3億2千万光年。
きゃー。ステキだ。ステキすぎる。見たい。見よう。
たくさんの銀河が寄り集まって集団になっているものを銀河団と呼ぶ。ちなみに、われわれの銀河系は、アンドロメダ銀河などと一緒に銀河団を構成しているのだそうな。おとめ座に有名な銀河団があるが(ちなみに、銀河団が複数集まると今度は「超銀河団」なるものができるらしく、われわれの銀河系は「おとめ座超銀河団」のメンバーということにもなるらしい)、その北側のかみのけ座にあるさらに別のもっと遠い銀河団が、今回の目標だ。かみのけ座銀河団には1000個以上の銀河が含まれているそうだが、その中心にあって一番明るいのが、NGC4889とNGC4874の2つで、星図上ではとても近い位置にある。写真に撮っても、同じ画面に収まりそうだ。NGC4889は今までに観測されているうちで最もサイズが大きい銀河なのだそうで(だから、こんなに離れてるのに明るめに見えるのだね)、中心にあるブラックホールも、これまた観測史上最大、太陽の200億倍の質量があるらしい。
…ふーん汗
なんのことやらさっぱりわかんないが、なんかとにかくスゲーらしいw というわけで、さっそく見に行ってみるぞ。
かみのけ座は、大きな散開星団がまるまる1つ星座になったようなもので、ファインダーで見ても、細かい星がきらきらと大量に光っているのがよく見える。が、今回探す銀河団は、かみのけ座中心部のこの賑やかなあたりからは少し外れた所にあるので、逆側のうしかい座のアルクトゥールスから、明るめの星をたどって探してゆくことにする(この方が、距離は遠いがわかりやすそうだ)。
アルクトゥールスのすぐ西に、ムフリドという3等星がある(ファインダーでは同じ視野に入るので、逆に言えば、ムフリドの方に向かえば天の西方向へ行ける)。そのままずっと西へ進むと、やがて4等星が一つ見えてくる。これが、かみのけ座のα星で、ディアデムという名前がついている(このすぐ近くには、球状星団M53もある)。その先にもう一つ、今度は5等星があるので(かみのけ座36番星)、ここで北へ曲がる。かみのけ座35番星(これも5等星。このすぐ近くには「黒目銀河」M64もある)が視野の中に見えているのも確認しつつ、さらに先へ進むと、5等星くらいの4つの星が、2つずつ固まって横一列に並んだ特徴的な星列が見えてくる。今回の目標のかみのけ座銀河団は、この星並びのちょうど真ん中へんのわずかに北寄りのあたりにあるはず。ここで探索を、ファインダーから鏡筒本体にチェンジだ。
(ちなみに、毎回こうやって経路をくどくどと記しているのは、次にもう一度自分で探す時のためのメモなのです。(^_^;)
4つの星の並んだ真ん中ちょっと北に、7等星くらいの星が3つ狭い範囲に並んだ三角形があるはず。おお、今回は珍しく、ファインダーでテキトーに入れたら一発でそれらしい星が一つカメラの画面に入ったぞ。この周辺をちょっと探すと… あった、これが2つ目。すると多分、こっちの方にもう1個… よしあった。これで今どこにいるかわかった。NGC4千なんちゃら(おぼえてないw)の2つの銀河は、この一番南の星のさらに南側に2つ並んであるはずだから、このくらいでちょうど画面真ん中に入るかな。よし、ではいよいよ撮影だ。シャッタースピードを5秒にして…
…おお、なんかぼうっとした点が2つ見えてきたよ。こ、これが、3億光年? なのか? そうなのか?
と、いうわけで、撮れた写真がこれです。結論から言うと、うちのポンコツ機材でもちゃんと写りました。画面中央の、一番大きいぼうっとしたシミ2つのうち、左がこの銀河団のボス、巨大銀河のNGC4889、距離はおよそ3億光年。右がナンバー2、これまた巨大銀河のNGC4874、こちらの距離は、地球からおよそ3億5千万光年。
…3億5千万。なんと素晴らしい響きでせう。ええ、「でもただのシミじゃん」と思ったあなた、あなたは正しい。私も正直、「ただのシミじゃん」と思うw(ちなみに予告しておきますと、後で今度は「ただの点じゃん」というモノも出てきますw)。しかしこのシミ、3億5千万光年かなたにあるのだ。この世界で一番速く移動するのは光だそうだが、1秒で30万キロ(地球を7周半)進む光が1年かかって進む距離が1光年(約9兆5千億キロ)。ちなみに人間の作った宇宙探査機の最速のやつは今秒速20キロくらいで飛んでいるらしい。秒速20キロと言えば、東京から大阪まで20秒で行ってしまうスピードだから、だいぶ速いと思うのだけど、これで1光年の距離を飛ぼうとすると、およそ1万5千年かかることになる。地球から一番近い太陽以外の恒星はケンタウルス座のα星だそうだが、4光年ちょっとのところにあるので、地球のロケットで行くと6万年ほどかかる。3億5千万光年先のNGC4724まで行こうとしたら、実に、5兆2500億年。この宇宙が始まるずっと前に出発していたとしても、まだ全然着かない(宇宙ができたのは138億年前だそうな)。ちなみに新幹線で行ったら、1京3千兆年…
なお、光が3億年かかって届いたということは、今見ている光は3億年前の光だということで、つまり、上の写真に見えているのは3億年前の宇宙ということになる。今現在どうなっているのかは、また3億年後にならないと誰にもわからない。うーん、やっぱどうもピンとこないけど、とにかくスゲーのだ、たぶんw
ちなみに、この写真にはいくつか恒星も写っているが、小さなぼやっとしたシミのように見えるものは、ほとんど全てが、かみのけ座銀河団に属する銀河である。また、この中の一番明るい星でも7等星なので、肉眼では、この写真に写っている天体はどれも全く見えない。
いやあ、うちのオンボロ望遠鏡でも本当に見えるんだなぁ。なんとも感慨深いです。そんでもまあやっぱり、ぶっちゃけただのシミにしか見えんよね。(^_^;
終わりよければ全てよしw
さて、アクリル箱を使ったお手製のテキトー台座で、軸の偏芯にもめげず、モーター追尾による天体写真を撮ることに成功してしまったおじさんである。もちろん、よく見ると、というか、よく見るまでもなく汗、星は微妙に流れていて、全然きっちり止まってはいないのだが、まあ、これくらいは許容範囲だ。そもそも40年前のグラグラ赤道儀だし、主鏡はカビてるんだしね(こればっかw)。
というわけで、ちょうど頃は3月も半ば、夜半におとめ座が真南の見やすい位置に来るのをいいことに、眼視では全然見えないおとめ座銀河団の暗めの銀河を片っ端から探訪して(もちろん、しょっちゅう迷子にはなりましたよ、ええ)、「うーん、楕円銀河やレンズ状銀河って、見てもなんかあんまりぱっとしないねぇ。やっぱ銀河は渦巻いててナンボだね」とか、聞いたふうなことをほざいて悦に入っていたわけですが、トラブルはそんな時に突然やって来たのである。
西の低めの空に鏡筒を向けた時のこと、急に画面が乱れて、それまで止まって見えていた星が一斉に流れ出した。あれ、追尾できてないぞ。同時に、歯車のあたりからカタン、カタンと等間隔で鋭い音が聞こえだした。
…いかん、空回りしてる汗
慌ててモーターを止める。歯車が削れたりしてはかなわんからね。急いで、ちゃっちいお手製台座をチェックしてみるが、特に緩んだり動いたりしている形跡はない。
恐る恐る、もう一度モーターのスイッチを入れてみると…
カタン… カタン…
だー、やっぱり空転してる。よく見ると、モーターのトルクに押されてか、台座のアクリル板が微妙に浮き上がっているようだった。不思議なことに、鏡筒の仰角が大きい時には特に問題ないのだが、低めのところへ向けると、浮き上がって空転しだす。
…うーん、困ったな。とりあえず、増し締めしてみる?
というわけで、六角レンチを持ってきて、アクリルの箱を止めているネジをよりしっかりと締めてみる。ぐいぐい。
ぴしっ。
…あ、割れた汗
無理に強く締めたら、アクリル板に大きなヒビが入って、それっきりグラグラになってしまった。はい、終了。数時間かけて工作した成果が一瞬にして水の泡。相変わらずのクラッシャー俺… (^_^;
こうして、新たな装着方法を模索することとなった。同じアクリルで作り直すという選択肢は、ない。もっと厚いちゃんとした板ならともかく、うちにあったテキトーなアクリル箱では、やはりどう見ても強度が足りないのだ。やはり、モーターを固定する台座としては、金属にしくはなし、か。
というわけで、サイズを測って適当なL型金具を買ってみる。買ったは良いのだが、さて、問題は取り付けだ。これのネジ穴は、うちにあるキリで穴開けてヤスリで広げるなんてわけにはいかないぞ。
仕方ない、金属用のドリルを買って練習するか、と思ったところでちょっと考えた。例えば、両面テープで貼ってみたりしたらどうだろう。接着材でくっつけてしまうことも考えたのだが、これだと後から調整できないし、将来的に赤道儀ごとEQ5に乗り換えた時に外すのも大変。その点両面テープなら、失敗しても原状回復はより容易。ドリルで穴あけよりずっと手軽だし、ダメもとで試してみるか…
というわけで、「後から剥がせる超強力なんちゃら」とかいうのを用意して、さっそく貼り付けてみる。うん、ネジよりはだいぶお手軽。簡単かんたん。なになに? 十分な強度を得るために、丸一日はそのまま放置してください?
一日千秋の思いで一晩待って、翌日の夜に、さっそく試してみる。モーターのスイッチを入れると…
カタン… カタン…
だー、やっぱだめじゃん泣
ま、そりゃそうだよね。両面テープってけっこう厚みがあってしかもなんかフワフワしてるし。剥がれはしないけど、浮き上がるのは防げないよなぁ。こりゃいよいよ、ドリルで金属加工か…
(実はこの時、「こんだけ手間かけても結局うちの赤道儀はもとからグラグラなんだし、もうEQ5に買い替えた方が利口かな」とEQ5の価格を確認してみたのだが、なんかコロナの影響か(中国製なので)、EQ5はどこの店にも在庫がなく、再入荷の予定も何ヶ月も先になっていた。一度カメラで淡い銀河を写す楽しみを知ってしまった今となっては、数ヶ月もまた眼視のみで我慢して、春の銀河の季節をみすみす逃すのはあまりにも忍びないw。というわけで、なんとか今の機材で工夫を続けようということになったわけだが、この時にEQ5が普通に売っていたら、今頃はEQ5を使っていたと思う。今にして思えば、これは、ポンコツおやじは大人しく40年前のポンコツで頑張れ、という天のお告げだったのかもしれんw)
初心者でも使える金属用ドリルというのをネットで探しながら、未練がましくもう一度、両面テープで貼り付けたモーターをよくよく見てみる。スイッチを入れると、モーターが浮き上がる方向に力が掛かって歯車が外れてしまう。そこで、試しに上から手で押さえておくと、あれ? 外れないぞ。
と言っても、ずっと手で押さえとくわけにもいかんしなぁ。そもそも、うちの赤道儀は、手が触れた途端に架台がグワンと揺れてブレてしまうし…
…ヒモで縛ってみたらどうだろう。
我ながらアホな気はした。まさかね、そんなんでうまくいくはずもないやね。まあでも、ダメでもともと。うまくいかなかったら大人しくドリルを買うことにして、とりあえず一回やってみるか。
というわけで、しばし考えて、植物の誘引用のビニタイを引っ張り出してくる。ツル植物を支柱に結んだりするときに使う、針金の芯の入ったビニールひもだ。適当な長さに切って、モーターの角に引っ掛けてから、赤道儀本体にぐるっと巻き付けて、きゅっと締める。歯車が噛み込みすぎないように、逆側からももう1本同じようにぐるっと回して、反対方向にも軽く引っ張って締める。うん、これで歯車の噛み具合も調整できて、なんかいい感じ。で、試しにモーターのスイッチを入れてみると…
…あれ? 動いたよ(嬉)
なんとその後、一切空転することもなく、なんかちゃんとうまく動くようになってしまったのでした。というわけで、うちの赤道儀のモーターは、両面テープで貼り付けた上にビニタイでぐるぐる巻きという、とてもみっともない姿で、いまだにバリバリ稼働中である。終わりよければ、全てよし笑
苦節40年(違う)、ついにモーター追尾撮影に成功!
さて、勢いで買ってしまったEQ5赤道儀用の赤経モーターを、うちの40年選手の初代ポラリス赤道儀にくっつけようという試みである。あきらめて大人しくドリルを買って、金属加工の練習から始めようかとも思ったのだが、はて、もうちょっと簡単な方法はないもんか…
…樹脂で台を作ることにすれば、うちにある道具でもいけないか?
さっそく、なるべく固そうなアクリルの小さな箱的なものを用意する。赤道儀の側面には、おそらく本来のMD5モーターを固定するための平らな部分があって、6mm径のネジが2つ付いている。それを外してから、アクリルの箱をあてがって、ネジ穴部分に印をつける(ザ・現物合わせw)。うちの道具箱にあったキリでアクリルに穴を開けて、棒ヤスリでゴリゴリと、6mm径まで穴を広げる。ネジで赤道儀本体に締め付けてみたら、なんと、意外としっかりと止まった。やった、これで台座らしきものができたぞ。続いて、モーターをこのアクリルの箱に乗せて、歯車の位置合わせをする。慎重に合わせたところで、モーターの底部のネジ穴の位置をまたアクリル板に写して、穴を開ける。開いた穴にビスを通してモーターをしっかり固定すると、歯車もちゃんと噛み合って、なんだかそれらしい様子に見えるぞ。触ってみたところ強度もそれなりにありそうで、え? これ、意外と行けんじゃね?
いそいそと部屋の中で鏡筒をセットして、モーターにコントローラーと電池ボックスをつなぐ。おもむろにスイッチを入れると、ウィーンとかすかな音を立ててモーターが動き始め、歯車がゆっくりと回転し出した。
等速だと歯車が1回転するのに10分かかるので汗、途中でコントローラーのスイッチを8倍速に切り替えて、祈るような気持ちで回転を見守る。何しろ軸に偏芯があるのだ。途中で噛んで止まってしまったり、外れて空転してしまうかもしれない。まだ大丈夫か、あと半回転、あと4分の1、あともうちょっと…
…やった、ちゃんと回るぞ。
なんと、モーターは止まりも空転もせず、ちゃんとコンスタントに赤道儀を動かし続けたのでした。偏芯しててもちゃんと回るし、ちゃちなアクリルのお手製台座でも、鏡筒とバランスウェイト分の重量を動かすモーターのトルクを支えることはできる。やったー、どうやら成功だ。なんと、着いた翌日には実際に使えるようになっちゃったぞ。意外とやるじゃんオレw
ただ、本当にちゃんと星の動きに合わせて正しいスピードで追尾できるのかどうかは、実際に夜になって試してみなければわからない。で、夜になって試してみた。その結果がこれ。
このときばかりは、ちょっと自分で自分を褒めてやりたい気分だったw まあ、「天体写真」として見れば、星像は肥大してるし流れてるし、色も補正しきれてなくて(実は、IRフィルターもカメラと一緒に買ったけど結局使っていない。うちの鏡筒はf10と大変暗いので、少しでも露出を稼ぎたいのだ)、お粗末な限りなのだが、個人的には、40年前のオンボロ機材でこんだけ写れば御の字。いやあ、カメラにモーター、買ってよかった。望遠鏡で写真、楽しいなぁ。
…が、もちろんそんなに簡単に全てうまく行くはずなどないのであって、うちの40年選手のオンボロ機材は、ポンコツ持ち主に対して次々と新たな牙を剥いてくるのであった(大げさ)。
失われたモーターを求めて(注:最初から付いてない)
さて、やっぱりモータードライブが欲しい、となったわけなのだが、何しろ40年以上前のオンボロ望遠鏡、前にも書いたが、これ用のモーターなどもう売ってないのである。専用品はビクセンのMD5というタイプなのだが、オークションなどにも今ちょうど出ているものはない(この次のタイプらしいMD6というのはちょこちょこ出品されるようなのだが、使えるのかどうか全くわからない汗)。なんとか代替品はないのかと思うのだが、何しろニワトリくらいの脳味噌しかないもんで、これがまあ、調べてもよくわからん。
世の中には、モーターを自作してしまうツワモノなんかもいるようなのだが、ネットにあがっているそうした情報のページなどを見てみると、これがまあ、ステッピングモーターを買ってきて、回路をはんだ付けして自作して、制御プログラムを組んでケーブルで繋いで、最後に「赤道儀本体にドリルでちょっとネジ穴を開けて固定します」とか、なんかすごいのだ。
…ハードル高すぎ。てか、天文趣味の人って、みんな電気工事とか金属加工とかのエキスパートなんか?(^_^;
ただのネジすらすぐダメにしてしまう不器用おじさんには、こんなんとてもムリ。てか、書いてあることが半分以上なんのことやらわからん汗。
やはり、既製品で何とか代用できるものを探すのが吉か(しかも、そもそもちゃんと機能するかすらよくわからないのだから、あまり高価なものもできれば避けたい汗)。
色々調べるうちに、結局、目指す結果は日周運動の追尾=24時間で360度という同じ速度なのだから、歯車の歯の数さえ合っていれば、モーターは代用できそうだということが判明。うちのポラリス赤道儀(初期型の末期バージョン、次の「ニューポラリス」に変わる直前のタイプらしい)の赤経軸の歯数は144だということまで調べはついたので、144歯のモータードライブを探してみる。
…あった。
SkyWatcherという、これまた中国メーカーのEQ5という赤道儀用の外付けモーターが、144歯だった。このEQ5は今時珍しい手動タイプの赤道儀で、モーターはオプション品なので、普通にモーターだけ新品で売っていて、普通に買うことができる。しかも、さすがの中華製で、お値段もそこまで張らない。赤経用の1軸モーターで1諭吉、赤緯用も付いた2軸モーターで2諭吉くらいだ(基本的に、日周運動の追尾だけなら赤経用だけでもよい。追尾エラーまで機械に自動で修正させる、いわゆる「オートガイド」までしようとすると、赤緯用モーターも必要になるらしい)。
…買いか? これは、買い、なのか?
そもそもこのEQ5というのはビクセンの新しめの「グレートポラリス赤道儀」なるもののコピー品らしく(40年かけて、「無印」→「ニュー」→「スーパー」→「グレート」と進化したらしいw)、歯車の軸径(5mm)なども同じ、という点も決め手になった。初期型ポラリスに対しても、ある程度の互換性は期待できそうじゃないか。
というわけで、買ってしまいました中華製モータードライブ。ちょっと奮発して、2軸タイプにしてしまった。実はうちの初期型ポラリス赤道儀の赤緯軸は72歯らしく、これに対してEQ5は赤緯軸も144歯らしいので、赤緯用モーターには互換性はないのだが、もし色んな理由で結局うちのオンボロでは全然使えませんでした、となった場合には、赤道儀ごとEQ5に買い替えてしまえば、モーターはそのまま使えて無駄にならない、という計算が働いた。貧乏性おじさんは、転んでもタダでは起きないのだw
さて、通販で到着した箱を開けてみると、結構ずっしりした剥き出しのモーター2つにコントロール装置とケーブル、電池ボックスのセットが出てきた。RAと書いてある方が赤経用だな。取り付け方を書いた説明書が入っていたが、全く参考にはならなかった。実は基本の仕組みは同じで、ちょっとした工夫ですんなり取り付けられるようになってたりしないかとうっすら期待していたのだが、EQ5は赤道儀本体にモーターを収納するボックスがついていて、その中にモーターをネジ止めする仕組みになっているらしい。うちの初期型ポラリスにはそんなものは影も形もなく、モーターの取り付けはやはり一から自分で工夫しなければならないようだ。うーん、参ったな汗
モーターの入った袋からさらに、クラッチ装置のついた歯車が出てきた。なるほど、この歯車を赤道儀本体の赤経軸に取り付けて、モーター側の歯車と噛み合わせて回すわけね。さっそく、赤経軸の微動ハンドルを外して、軸に歯車をはめてみる。おお、ぴったりだ。ネジを締めて、よし、オッケー。
…!?
曲がってないかこれ?汗
いや、どうも、歯車が中心軸に対して斜めになっているように見えるのだ。というか、よく見たら軸そのものが微妙に斜めに曲がっているようにも見える。え? 気のせいだよねこれ汗
慌てて、微動ハンドルを軸の反対側に取り付けて回してみる。くるくる。
…どっひゃー。思いっきり曲がってるよこの軸。
よく見ると、赤経軸が赤道儀本体から出たところで結構派手に曲がっていて、歯車は止まりかかったコマのように顔を少し外側に向けて、ぐりんぐりんと偏芯して回っていた。しかも、わずかにズレてるとかのレベルではなく、振れ幅3, 4mmはあろうかというくらいの、あからさまなブレ。
…だー、なんじゃこりゃ。ダメじゃん。
これはテンションだだ下がりだった。正確な追尾のためには、この赤経ウォーム歯車の工作精度が決定的に重要であるらしく、ほんのわずかな偏芯があるだけでも、星は流れて写ってしまうものらしい。で、うちの望遠鏡のこれは、わずかどころの騒ぎではなく、これじゃあ歯車自体噛み合わないんじゃないの?というレベル。どう見てもアウト汗。普段は微動ハンドルをつけて手動で回すだけだったので、今まで全く気づいていなかったのだが、いったいどうしてこんなことに…
…あのクソガキ(←自分)
そういえば昔、天頂付近を見ていた時に、赤経と赤緯の微動ハンドルどうしがぶつかって引っかかったのを、横着してそのまま無理やり回して、ガリガリ言わせながら乗り越えたような記憶がかすかにある(しかも一度ならず汗)。今にして思えばあの時か。くそ、クラッシャー小学生オレ、最後の最後にとんでもない置き土産を残して行きやがったな。
と、ここでふと気づいてぞっとした。もし本来のうちの機種用のMD5というモータードライブを中古で探して買っていたら、この時点ですでに完全に詰んでいるところだった。MD5は歯車を介さずに、モーターの軸をカップラーで赤道儀の赤経軸に直結するタイプらしいので、こんなに曲がっていたら、どう考えてもそもそも回らない。こえー、あっち買わないでよかった…
そう、おっさんのチャレンジはまだ終わってはいないのだ。今回買った歯車式なら、まだ調整の余地はある(たぶんw)。正直、一番肝心なウォーム軸がこんなに曲がっているとわかっていたら、おそらく初めから赤道儀ごと買い替えていたんじゃないかと思う。が、そこそこの金をかけてモーターだけ買ってしまった今となっては、とにかくこれで、どこまでやれるか試してみるしかない…
とりあえず、歯車の締めネジを一回緩めて、定位置からずっと奥の、なるべく軸の付け根に近い方へずらして付け直してみる。赤経軸自体の回転には特に渋いところもないようなので、内部にはそれほど大きな問題はなく、付け根の所を支点にして、外に出ている部分だけが曲がったのだろう。とすれば、なるべく付け根に近いところなら、それだけ偏芯も少ないはず。
はたして、もう一度回してみたら、確かにまだ曲がってはいるけれど、回転のブレ幅は1mm程度まで減った。これくらいなら、歯車の歯の部分の深さで吸収できるかもしれん。いわゆるピリオディックモーションはきっととんでもない量になりそうだけど、とりあえず追尾できて写真が撮れれば、少々の流れやズレには目をつぶろう(どうせもともと、カビてる主鏡にグラグラの架台なんだから、まともに写るわけもないw)。どうしてもダメなら、赤道儀ごと買い替えればいいだけのこと。
…よし、じゃあなんとかこのモーターを赤道儀に取り付けてみよう。
で、結局これが一番大変だったのだが、それはまた次の話。