そろそろ店じまい?

40代のくたびれたおっさんゲイのよしなしごと

花火

 近所にそこそこ大きなテーマパーク的なものが一つあって、以前から、週末の夜の決まった時刻に、季節に関係なく短い時間花火を打ち上げる。家の外に出れば見えなくはないのだが、単なる景気づけで、わざわざ見るほどのものでもないので、いつも「うるせえなぁ」くらいにしか思っていなかった。

 

 少し前のある週末のこと、夕食後に食器を洗っていたら、またドンドンと打ち上げが始まった。と、突然ドタドタと母親の足音が廊下に聞こえて、それが台所の方へ来るのではなく、なんだか玄関の方へ向かった様子。その後すぐに、玄関のドアが開いてまた閉まる音がした。は? 何だいったい?

 

 急いで手についた洗剤を洗い流して玄関へ向かう。母親が出て行った形跡がある。外へ出ると、ちょっと先の路上でボケっと花火を見ていた。台所へ持ってくるように言った食器を手に持ったままだ(親は洗いものもそろそろできなくなってきているので、食器を台所に運ぶのだけ手伝ってもらっている)。

 

 「なにしてんの?」

 「花火。」

 「いやいや、あれは毎週やってる〇〇のやつで、大したんじゃないから。すぐ終わっちゃうし、そもそも低くてよく見えないでしょ。」

 「でも見えるよ。」

 「まあそうだけど、まずはその食器を台所にもってきなさいな。片づけてる途中でしょうが。」

 

 不満そうな顔の母親を連れ帰って、洗い物再開。と、またドンドンと花火の音。廊下にドタドタと足音がして、玄関のドアが開いて閉まる音がした。おいおいおい。手を洗って外に出ると、またボケっと空を見上げている。やれやれ。

 

 「なにしてんの?」

 「花火。」

 「今片付けしてるとこなんだけど。」

 「そう? でも花火やってるから。」

 「あれは〇〇でやってる大したことないやつで、こっからだと低くてよく見えないでしょ。そもそももう何年も前から毎週やってるのに、今まで興味もってなかったじゃない。」

 「そうだっけ?」

 「そう。ほらもう終わったし家入んなさい。蚊に刺されるよ。」

 

 全く、いい年した息子に家事全部やらせて花火って、子供じゃないんだから、と思うのだが、考えてみたらまあ子供みたいなもんなので、しゃーない。結婚もしてないのに、三、四歳くらいの子供がいきなりできたようなものだ。子供はまだどんどん自分でできるようになっていくのを見る楽しみがあるだろうけど、認知症の親はいろんなことができなくなっていく一方なのがどうも。まあでも、あの音が花火だとわかってるだけでもまだいいのかもしれない。そのうち記憶が更に退行して、空襲の音と間違えて防空壕でも探すようになったら面倒だぞw

 

 こうしてなんだか急に花火が楽しみになったようなので、そのしばらく後にあった近所の海岸の年一度の大きな花火大会の日には、夕食の時間をずらしてゆっくり見ることにした。こちらの花火大会は大玉をけっこう打ち上げるので、家の二階の窓から見ることができる。一時間ほどの間だが、親は文字通り一心不乱に、目を輝かせて花火を眺めていた。さて、あと何回見られるだろうかね。

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  横着して部屋の中から手持ちでオート。最近のカメラはこれでもそれなりに写るのだからすごいね(フォーカスだけはマニュアルにしてるけど)。網戸が天然クロスフィルター(笑)