そろそろ店じまい?

40代のくたびれたおっさんゲイのよしなしごと

散開星団を見た話

 さて、実際に設置して覗いてみたら、40年以上放置してあったのに意外と普通に見えるということが判明した望遠鏡で、その後も、オリオン座の大星雲だのおうし座のプレヤデス星団だの、あるいは金星だの火星だのといった、肉眼でも位置が確認できる天体をちょこちょこ覗いてみて、「お、見える見える、懐かしいねぇ」とご満悦の、かつて星見少年だったおっさんである。よし、次はいよいよ、ガキの頃には果たせなかった、肉眼では見えない天体を覗いてみるのに挑戦だ。

 肉眼で見えない天体を手動で導入する時のコツは、ファインダーや接眼レンズごとの視野角をだいたい把握しておくこと、つまり、星図上のどの範囲が今見えているのかをおおよそわかるようになっておくことらしい。なるほど。うちの新型中華ファインダーは視野角7.5度らしいから、オリオン座の三つ星を2つ並べたくらいの範囲が視野に入るわけだ。あるいは、ふたご座のカストルポルックスが、視野の7割ほどの範囲にちょうど収まるくらい、かな。で、実際覗いてみると確かにそうなっている。なるほど、こうやって星図を見ながら近くの星を順番にたどって行けばいいわけか。

 うーん、ていうかこれ、せっかくコンピュータ上で星図を見てるわけなんだし、視野枠の線を画面に出せたら便利じゃね?

 というわけで、そういう機能をもった星図ソフトみたいなのがないか探してみる。すると、Stellariumというプラネタリウムソフトに、そのものずばりの機能があることを発見。ファインダーや接眼レンズの視野角(や望遠鏡の焦点距離)をあらかじめ登録しておけば、ボタン一つで画面に視野枠を表示して動かして見ることができる。しかも、地域の「光害」の状況に応じて、何等星くらいまでを画面に表示するかも設定できるので、ファインダーや接眼レンズで覗いた時の見え方をほぼ正確にあらかじめシミュレートできる。すげー便利じゃんこれ。しかもフリーソフト

 これがあれば初心者のおっさんでもなんとかなりそうだぞ。よし、さっそく何か探して見てやろう。とりあえずは大きくて明るい散開星団とかがいいのかな。ネットで検索してみると、ふたご座のM35とか、「満月ほどの大きさがあって美しい」と書いてある。

 ちなみに、M35くらいの明るい星団だと、空が十分に暗い場所なら本当は肉眼でもぼんやり見えるらしいのだが、うちあたりはいわゆる完全な「光害地」で、どれだけ空が澄んだ日でも、はっきり見えるのは2等星まで。3等星になると、明るめのやつが目を凝らしてやっとわかるかどうかという悲しいレベルである。プレヤデスとヒアデス以外の星団なんて、肉眼では全く見えない(かに座のプレセペも、双眼鏡かファインダーでないと見えない。そもそもプレヤデスも、肉眼ではあるかないかよくわからないくらいにしか見えない)。

 というわけで、さっそくStellariumを使ってシミュレートである。ふたご座の弟の方ポルックス(実は星としては兄のカストルよりポルックスの方が明るい。不死身だから?w)の足もとに、アルヘナという2等星がある(これはうちからでも肉眼で見える)。そこから天の北西方向へほぼ一直線に明るい星が2つ並んでいて、2つ目がふたご座のμ星。そこから西に曲がって、隣の明るい星がη星。そのまま先へ進むと、ファインダーの視野内にもう一つやや暗い星が見えているはずで、これがふたご座の1番という星。M35は、ηと1番を結んだ線を底辺とする二等辺三角形を北西側に作って、その頂点の部分にあるはず。

 というわけで、早速実際にファインダーで覗いてみる。上下左右倒立像のファインダーに相変わらず苦戦しながら(曲がるところでどっちに行くのかいまだによくわからなくなる。(^^; )、シミュレーションした通りに辿っていくと、おお、星図に書いてある通りの場所にちゃんと次々と星が見えてくるじゃないか(当たり前だ)。すごいぞStellarium。

 さて、星の並びをたどって、大体この辺のはず、というところまでファインダー上で追い込んで、いよいよ接眼レンズを覗いてみる。ピントを合わせると星はいくつか見えるが、パラパラとまばらに光っているだけで、全然「星団」て感じじゃない。うーん、これじゃないよね…

 慌てない慌てない。そう、このファインダーは光軸合わせがきっちりできなくて、中心が微妙にずれてるんだった。微動ハンドルを動かして、周辺をちょこちょこと探してみる。うーん、ここもいくつか星が集まった感じにはなってるけど、これが星団なのかねぇ。よくわからんなぁ。もうちょっと先へ行ってみるか…

 あ、あった、これだ。

 M35は急に視界に飛び込んできたのでした。今まで見ていた点々とした星々とは明らかに違う、ぎっしり密集したかたまり状の星の集まりが、目の前で突然きらきらと輝いておりました。暗い視野の中に光る砂を撒いたような感じで、他の個々の恒星とは明らかに違う、一目で「ああ、これが星団というものなのね」とわかる眺めでした。

ふたご座の散開星団M35。これはStellariumでシミュレートしたイメージ画像

 うーん、きれいだ…


 この年になってついに初めて、肉眼では見えない天体を望遠鏡で見ることができて、おじさんちょっと感動。しかも、散開星団はよく「宝石箱をひっくり返したような眺め」なんて形容されますが、実際そんな感じで、なかなかに美しい。真冬の寒~い夜に、鼻水垂らしながら無言でいつまでもずっとひとり望遠鏡を覗きこんでいるオヤジって、客観的に見るとキモい以外の何物でもない気がするが、まあ、夜中のベランダで誰が見ているわけでもないので、いいのだw


 というわけで、引き続き、これまた大型で明るくて見やすいという散開星団おおいぬ座のM41をめざすことにする。こちらはおおいぬ座シリウスのすぐ南で、ファインダーにシリウスを入れて少しずらせば、もう同じ視野に入っているらしい。より簡単に見つけられそうだぞ。

おおいぬ座散開星団M41。ファインダーでの見え方をStellariumでシミュレートしたもの

 というわけで、ファインダーにシリウスを入れて、真北ちょっと西よりの方向へ動かしてゆく。シリウスがファインダーを出てすぐあたりで、真ん中にM41が入っているはず。接眼レンズを覗いてみると…

 ん、やっぱりないか汗。いや、このファインダーずれてるからね。焦らず騒がず、微動ハンドルでまわりを探して、と…

 あった。

 今度の方がすぐに見つけられた。これも、大きさ、明るさ共にM35によく似た感じの立派な散開星団だ。こちらの方が、やや密集度は低い感じかな。それでも、明るい星暗い星まんべんなく散りばめられてきらきらしている様子はやはり見事。うーん、いいねぇ、星団。

 星図を使った手動導入、十分行けるじゃん。これなら、自動導入なんて別にいらないんじゃね?

 ちょっとうまく行ってすっかりいい気になってるオッサンなのでした。ありがとうStellarium。

 その後も、晴れている夜中にはいそいそと毎日のように望遠鏡を持ち出して、次々と冬の散開星団を探訪してみた。個人的には、とも座のM47のように、まばらでも明るい星が多い星団が、星の色の違いもよくわかって楽しい気がする。「宝石箱をひっくり返したような」散開星団、慣れてくると、不定形だということもあって、「なんか、見ようによってはアメーバみたい、というか、もっと言うと、吐瀉物がきらきらしてるみたい?」とか思わなくもないのだけどw、いずれにせよ、実物はやはりなかなかよいもんです。

 実物、という点で言うと、星雲とか銀河とかと違って、散開星団(と重星)は、写真に撮るより接眼レンズを通して直接自分の目で見る眼視の方がずっと映えるような気がする。自力で光っている恒星の光は、画面を通して見たり紙の上で反射した姿で見るより、直接網膜に飛び込んでくる澄み切った輝きや色の方が数段美しいように思います(まあ、自分の機材や腕ではうまく写真に撮れないせいが大きいかもしれんですがw)。

 しかしそれにしても、ファインダーと星図を使った手動導入に少しずつ慣れてくると、はじめは便利そうで欲しいなぁと思っていた自動導入のシステムは要らないかなとますます思うようになった。負け惜しみではなく、実は望遠鏡で星を見る楽しみのけっこうな部分は、自力で星をたどって、たまには迷子になってまた戻ってやり直したりもしながら、目的の天体にだんだん近づいてゆく、この過程にあるような気もしているのである。なんというか、疑似的に、広い宇宙をひとりで実際に旅して遠くまで来たような気分になれると言うか、ファインダー上で「よし、この辺で間違いない」と追い込んで、接眼レンズを覗きこんだ時に、目当ての天体がばっちり視野の中に見えていた時の「おお、あった。着いたよ~」というあの喜びは、自動導入でボタン一つで望遠鏡が勝手に動いて見せてくれるのを覗くだけでは、薄れてしまうような気がしなくもない(まあ、手動だとその分時間は確実に余計にかかるのだけど)。

 さあ、次はいよいよ、球状星団や銀河にも挑戦だ。(^^;